性同一性障害特例法の生殖不能要件を違憲とする判決

1 重要判例解説

令和5年度重要判例解説が、令和6年5月20日発行されました。1年分の社会や法律家の実務に大きな影響を与えそうな裁判例をまとめた書籍で、例年4月10日頃までに発行されていたと思うのですが、今年から発行が5月になりました。弁護士実務を続けていくうえで、判例の変更を追いかけるのは必須の研鑽といえます。

私が注目したのは、性同一性障害特例法の生殖不能要件を違憲とする判決(最高裁令和5年10月25日大法廷決定)です。

2 事案の概要

Xは、生物学的には男性だが、女性への性別取扱いの変更を申し立てたが、「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」(性同一性障害者の性別の取扱いの 

 特例に関する法律第3条第1項4号)(以下、「本件規定」という。)に該当しないという理由で、申立てが認められなかった。

Xは、4号が憲法13条に違反するとして争った。

3 決定の要旨

本件規定が必要かつ合理的な制約を課すものとして、憲法13条に適合するか否かは、本件規定の目的のために制約が必要とされる程度と、制約される自由の内容及び性質、具

体的な制約の態様及び程度等を較量して判断されるべきである。

本件規定の目的は、性別変更前の性別の生殖機能により子が生まれることで生ずる親子関係名地に関わる問題による混乱の防止、生物学的な性別に基づく男女の区別に対する急

激な変化を避ける必要等の配慮に基づく。

しかし、性同一性障害を有する者は社会全体から見れば少数である、1万人を超える者が審判を受けて性同一性障害を有する者への理解が広まりつつあること等から、制約の必

要性は低減している。

一方、医学的知見の進展に伴い、治療としては生殖腺除去手術を要しない性同一性障害者に対し、身体への侵襲を受けない自由を放棄して強度な身体的侵襲である生殖腺除去手   術を受けることを甘受するか、又は性自任に従った法定上の性別の取扱いを受けるという重要な法的利益を放棄して性別変更審判を受けることを断念するかという過酷な二者択一を迫るものになった。そのため、本件規定による制約の程度は重大である。

4 意見

最高裁は、平成31年1月23日の決定で、本件規定を憲法違反でないとしており、4年の間にどんな変化があって判断を180度変えたのか疑問に感じる点がある。

しかし、生殖腺の除去は、私見では昔の外国の刑罰を思い起こさせ、この判例がいうように、過酷であると思えるので、この判断は妥当であると考えられる。