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会社破産と未払賃金立替払制度

1 未払賃金立替払制度とは

会社が倒産したときに、従業員の給料が払われないまま終わることがあります。

従業員は、いきなり職を失い、給料ももらえないと直ちに生活に困ることになりかねません。そこで、独立行政法人労働者健康安全機構が、従業員の給料の一部を立て替えて

払う制度があります。詳細は、労働者健康機構のホームページで確認できますが(https://www.johas.go.jp/tabid/687/Default.aspx)、ここでは会社の破産に数多く関与した弁護士として、重要なポイントにしぼってお伝えします。

2 もらえるのは従業員の給料と退職金の80%が目安

公的な機関が税金を投じて支払うので、もらえるものは限られています。年齢や年収によって異なりますが、おおむね給料の80%までで、賞与は含まれません。

解雇予告手当や会社の経費の立替金は対象外となっており、取締役の役員報酬や外注費は対象外となっています。

退職金も、退職金規定等で定められた金額の80%まで対象になりますが、規定にない多額の退職金等は認められません。

3 破産管財人が証明するため、勤務実態を示す資料が必要

未払いの給料額は、会社破産の場合は破産管財人という裁判所が選ぶ弁護士が証明しなくてはなりません。

以前に勤務実態がない従業員の給料の立替払いを受けようとした詐欺事案などもあり、勤務時間や給料計算が正確か審査されます。

そこで、会社代表者は、タイムカード、賃金台帳、日報、雇用契約書等給料計算の方法と勤務実態を示す資料を破産を依頼する弁護士に提出しておく必要があります。

4 払われるまで最低2カ月かかる

立替払いを受けるには、未払給料額を計算して根拠資料を添付する、給与振込先や住所等を記載した立替払請求書を作成する、破産管財人が証明して労働者健康安全機構の審査

を受ける等、多くのステップがあります。

実際に管財人の審査と機構の審査が終わって払われるまでには、最低でも2カ月以上かかりますから、実際の給料日に払われるわけではありません。

5 未払賃金立替払制度には様々な要件や手続きが存在しますので、従業員の給料が払えない可能性がある会社代表者は、この制度に詳しい弁護士に相談するのがよいでしょう。

会社が破産する場合の経営者保証ガイドラインの特徴

1 経営者保証ガイドラインとは

以前は、会社の代表者は、会社が倒産するときには自己破産するケースが大半でした。会社の代表者は、会社の連帯保証人になっており、保証債務を支払わなければなりませんが、 完済できるだけの資力が残っていないケースが多いためです。

しかし、自己破産すると、信用情報が事故登録されて今後の融資は見込めなくなりますし、自宅やめぼしい資産は手放すことになるため、会社を廃業するハードルが高くなり、代表者の経済的な立ち直りも難しくするという問題がありました。

そこで、金融庁等が銀行や信用金庫などの連帯保証人をとる金融債権者に対して、代表者との話し合いで、一定の資産を残すことを認めつつ債務を免除する基準を設けたのが、経営者保証ガイドラインです。

2 自宅等の資産を残せるケースが多い

経営者保証ガイドラインでは、華美でない自宅を残すことを認めており、住宅ローンのある自宅では、住宅ローンを払い続けて自宅に住み続けることも認めています。

解約して99万円を超える生命保険や99万円以上の預貯金も、自己破産では基本的に残りませんが、経営者保証ガイドラインでは、法人の配当が増えた等一定の場合に残すこ

とを認めています。

3 減額の対象となる全債権者の同意が必要

ただ、経営者保証ガイドラインは、あくまで話し合いなので、1社でも減額に反対する金融機関があれば成立しないのが原則です。

粉飾決算や代表者個人の浪費がある場合、不適切なお金の流れがある場合等は、同意しない確率が高まります。

4 代表者個人の借入や、金融機関以外の保証債務は対象外

また、代表者個人が会社の運転資金に充てるためにカードローンを使ったり、クレジットカードで買い物した分は、保証債務ではないので、経営者保証ガイドラインの対象外で

す。

賃貸借契約の保証人や取引先の保証人になっているものも、ガイドラインは使えません。

これらは基本的に全額支払う必要があるので、金融機関以外の保証や代表者個人の借入が相当額ある場合は、ガイドラインを使うのをあきらめざるをえないのが通常です。

5 このように、経営者保証ガイドラインは使えないケースも多いですが、自宅や目ぼしい資産を残したい場合には、活用する価値があります。

会社の破産では、早期に破産したことで会社の配当が増えたことが、多くの個人資産を残すことにつながりますので、早めに弁護士に相談することが肝心です。

 

事業が続けられるかの見極め

1 事業が続けられるかを見極めるポイント

事業再生にたずさわる弁護士のもとには、何とか事業を続けたいが資金繰りが厳しいという代表者の方が毎月何人も相談に来ます。

事業が続けられるかは、事業形態や権利関係によるところもありますが、弁護士が簡単に見極めるポイントとして使っているものをお伝えします。

2 事業に不可欠な経費の支払いができるだけの現金預金があること

たとえば仕入をして売る業種では、仕入代が払えず仕入ができなければ、事業として成り立ちません。

従業員が店に立ってくれなければできない業種で、給料が払えないなら、事業を続けることはできません。

金融機関への返済額は、弁護士が入って調整することもできますが、事業に不可欠な経費の支払いができなければ、事業は続けられません。

そのため、給料や大きな仕入代の支払日に、支払いに必要なキャッシュ(現金預金)が残っている必要があります。

よく資金繰りの相談に行くと、会社の資金繰り表を作るよう言われるのは、入金が後で支払いが先だと、たとえ黒字でも支払いができなくて事業が続けられないケースがあるからです。

3 返済をしなければ黒字にもっていけるか

赤字であっても、現金預金が残っている限りは事業が続けられるといいます。

ただ、弁護士のところに事業再生の相談に来られる会社は、現金預金が少なくなっており、かつ赤字の会社が多いので、赤字が数カ月続くだけで現金預金がなくなりそうなケー

スが多いです。

すると、赤字から黒字になるプランを数カ月で実行しなければなりません。

どこまで黒字になればよいのかというと、最低限は返済を0と仮定した場合の黒字です。

事業を続ける以上、一旦返済を止めることはできても将来的に返済できる見込みがないと、事業を再生したり借金を減額してもらうことはできません。

4 投じられる個人資産や融資も検討

主には2と3が事業を続けられるかの簡単な目安になりますが、補助的には、現金預金以外に、現金化しやすそうな会社又は代表者個人の資産がないか、代表者個人も含めて融

資を受ける余地がないか検討します。

たとえば解約してお金が返ってくる保険、活用できていない車両の売却等で現金が手に入れば、仕入代や人件費に充てられます。

ただ、借りた直後に資金繰りができなくなって倒産すると、計画倒産とか返済する意思がないのに借りたとして詐欺罪に問われる可能性もありますので、融資は慎重に検討しま

しょう。詳細は事業再生に強い弁護士にご相談ください。

 

役員全員の同意が得られなくても会社の破産はできる

1 会社の破産は、取締役全員の同意を得て行うのが原則

会社が破産する場合は、会社の取締役会で会社の取締役の決議を行い、全員の同意を得て自己破産の申立てをするのが原則です。

会社の破産は、会社をやめるという大きな判断なので、経営に責任のある取締役たちが話し合って、破産をしようと決めるのを建前としているのです。

実際に取締役会を開いて一堂に会するのは、時間も労力もかかるので、法人の登記に名前がのっている取締役全員に、自己破産に同意する旨の書面を持ちまわるなどして

同意を得ているケースが多いです。

2 役員の一人の資格での破産申立て

しかし、役員の一人が名目だけで連絡先が分からない場合や、役員の一部が反対している場合に絶対に自己破産できないとすると、資金繰りがつかない会社を経営

する方は、ずっと督促を受け続けることになります。債権者も損金処理することができないままになってしまいます。

そこで、破産法では、会社の取締役の一人だけでも自己破産を希望する場合は、会社の破産申立てができるとしています。条文を見てみましょう。

(法人の破産手続開始の申立て)

第十九条 次の各号に掲げる法人については、それぞれ当該各号に定める者は、破産手続開始の申立てをすることができる。

一 一般社団法人又は一般財団法人 理事

二 株式会社又は相互会社(保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第五項に規定する相互会社をいう。第百五十条第六項第三号において同じ。) 取締役
三 合名会社、合資会社又は合同会社 業務を執行する社員
2 前項各号に掲げる法人については、清算人も、破産手続開始の申立てをすることができる。
4 前三項の規定は、第一項各号に掲げる法人以外の法人について準用する。

3 準自己破産の申立て

これにより、株式会社の取締役だけでなく、一般社団法人や医療法人の理事なども一人で会社の自己破産の申立てができることになります。

実際、取締役同士で対立がある場合等は、対立している取締役に破産することを知らせると、債権者を連れてきて財産が盗まれたるなどの騒動になることもあります。

そこで、他の取締役に知らせずに自己破産申立てするケースもあり、準自己破産と呼ばれています。

ただし、代表取締役が不在の場合等は、特別代理人の選任申立てという手続きも合わせて必要になることがあります。

詳細は会社破産に詳しい弁護士におたずねください。