カテゴリー別アーカイブ: 債務整理

自己破産したときに残る保険と残らない保険

1 自己破産すると目ぼしい財産を手放す必要がある

自己破産は,財産をお金にかえて債権者に分け,それでも残る債務(借金)の支払義務を,裁判所を通じて免除してもらう手続きです。

自己破産すれば,原則として全ての債務を支払わなくてよくなりますが,代わりに目ぼしい財産は手放さなければなりません。

「目ぼしい財産」と書いたのは,自己破産しても価値が低く,生活に必要最小限の財産等は手元に残るからです。

2 自己破産しても残る財産の決め方

破産法によると,自己破産して財産が残るかは,破産者の生活状況,財産の種類・金額,破産者が収入を得る見込みその他の事情を総合的に考慮して判断されます(破産法34条4項)。

財産の金額は,保険の場合は,破産手続開始決定時の解約返戻金額(仮に解約した場合に戻ってくる金額)です。

この規定は抽象的で,実際は,裁判所ごとに,それぞれどのような財産を残すことを認めやすいかについて基準を定めており,その基準に従って判断されます。

したがって,裁判所ごとに運用が異なり,たとえば名古屋にお住いの方であれば名古屋の裁判所の運用によることになりますが,ここでは一般的な考え方を紹介したいと思います。

3 自己破産しても残りやすい保険と残りにくい保険

保険には,自動車保険,火災保険,生命保険等様々な種類があります。

このうち,自動車保険は,自分で使っている自動車1台分であれば,ほとんどの場合は残ります。

自動車を運転する限り任意保険に加入していないと,大きな損害賠償金を負担することになりかねないので,自動車を残すことを認めるならば一緒に残すことが通常認められます。

妻子の車の自動車保険もかけている場合は,妻子自身がかけることができないか検討されますが,もともと解約しても返戻金が少ないこと等から,残るケースが多いといえます。

火災保険は,賃貸の自宅についている保険は,解約してもわずかな金額しか返ってこないことや,賃貸借契約で,火災保険に入っていることが入居の条件になっていることが多く,なくなると退去せざるをえないのは酷ですから,ほぼ手元に残ります。

一方,自己所有の自宅の火災保険は,自己破産により自己所有の自宅は手放すのが通常ですから,火災保険だけ残す必要はないため,ほぼ手元に残りません。

生命保険は,何口あるかや誰を被保険者にしているかと,解約して返ってくる金額によって判断が分かれるものです。

一般に,99万円を超える返戻金がある生命保険は,残りません。

また,20万円から99万円の返戻金がある生命保険も,何口もあるようであれば,1口を除いて手元に残らない例が多いと思われます。

一方,20万円を下回る返戻金しかない保険や掛け捨ての保険は,残る可能性が高く,また,病気で二度と保険に入れない人は残りやすい傾向があります。

4 自己破産しても保険が残るかどうかは,保険の種類や解約して返ってくる金額のほか,他の人が保険をかけることができないかや今後の生活にどの程度必要か等,

様々な事情を考慮して決められますので,自己破産の経験豊富な弁護士に相談のうえ,裁判所や管財人に意見を述べてもらうことになります。

 

 

 

自宅の任意売却と競売

1 任意売却と競売

自己破産等の債務整理に伴って自宅を手放す場合に,任意売却と競売のどちらを選ぶのがよいかという質問をよくいただきます。

任意売却は,自ら不動産業者を選んで不動産を売りに出すことです。

競売は,債権者が裁判所を通じて強制的に不動産を売ることです。

2 任意売却のメリット

任意売却は,競売より高値で売れるため,連帯保証人がいる場合等は少しでも残る債務が少なくなるメリットがあります。

また,協力してくれた対価として,債権者や買主との話し合いで,引越協力金等の名目のお金をもらえることがあります。

競売はBITと呼ばれるインターネット上のサイトに情報がのるため,近隣住民等に借金が払えずに競売になったことが知れる可能性が十分あるのに対して,

任意売却の場合は,近隣住民等には普通に不動産を売り出しているだけに見えるので,借金のことが知れる可能性が低くなります。

3 競売のメリット

任意売却では,不動産業者とのやりとりや,購入を検討される方が家の中を見に来るのに立ち会う等の手間がかかるのに対して,競売は,債権者が手続きを進めるので,裁判所の職

員が1回自宅を見に来るのに立ち会う以外は,ほとんど手続きの手間がかかりません。

また,任意売却は,自分で売り出している以上,不要な家具等を置いていくことことはできず,廃棄物処理業者に頼んで処分しなければならないことも多いですが,

競売の場合は,放置しておいても買主が処分してくれることが多いといえます。

4 まとめ

このように,任意売却と競売にはそれぞれメリット・デメリットがあります。

ちょうど,任意売却のメリットが競売のデメリットになり,競売のメリットが任意売却のデメリットになるという関係です。

私に依頼いただいて任意売却を検討される方には,任意売却の経験豊富な不動産業者をご紹介することもできます。

任意売却は,通常の不動産売買と異なり,債権者との交渉も必要になります。

たとえば,住宅ローンが1000万円残っている不動産で,売っても600万円程度しかならない場合,住宅ローンの債権者は,完済できていないため抵当権を抹消できないはず

ですが,これ以上では売れないこと等を理解してもらって,交渉により抵当権を外してもらう必要があるのです。

このように,不動産業者の中でも任意売却の経験豊富な業者を選ばなければ,任意売却もうまくいきません。

詳細は,弁護士におたずねください。

 

 

 

個人再生と債権者の賛成

1 債権者の賛成がいる個人再生といらない個人再生

個人再生は,裁判所を通じて,借金を減額してもらい,3~5年で支払う債務整理の方法のひとつです。

個人再生には,債権者の半分以上の賛成が必要な小規模個人再生と,債権者の賛成がいらない給与所得者等再生の2種類があります。

これだけ見ると,誰しも給与所得者等再生を選びたくなりますが,最高裁判所の統計では,9割程度が小規模個人再生を選択しています。

その理由は,給与所得者等再生がはるかに支払額が多くなる場合が多いというほか,債権者が反対するケースはあまり多くないためと言われています。

2 債権者が反対する場合

小規模個人再生で債権者が反対するのに理由は必要ありませんし,弁護士から債権者に問い合わせをしても,明確な回答をする債権者はほぼいません。

ですから,個人再生の申立てをする時点で,債権者が反対するかどうかは不明です。

しかし,一般的に,債権者が反対するかどうかは,いくつかの要素を総合的に判断して決めているようです。

1つは,そもそも反対しやすい債権者がいるということです。

公庫や信用保証協会等,純然たる民間の金融機関でない債権者は,反対することが多いといわれていますし,消費者金融やカード会社にも,資料を詳細に検討して賛否を決めている業者がいます。

2つ目は,収入・支出のバランスと返済状況です。

無駄使いが多いから債権者に支払える額が少なくなるのであれば,債権者は納得しませんので,目いっぱい節約しても,多くは支払えないことを家計を集計する等して

示していく必要があります。

また,借入を始めて早々に個人再生をした場合は,借入当初から返済の見込みがなかった可能性があるうえ,債権者は利息による収入をほとんど得ていませんから,

反対の可能性は高くなります。

3つ目は,財産状況です。

債権者は,少なくとも,自己破産になった場合よりどの程度多くの支払いが得られるかを考えます。

自己破産の場合は,目ぼしい財産はお金に換えて債権者に分けられますから,債権者からすれば,分割ではなく,早期にまとまったお金が手に入る可能性があります。

そうすると,財産が多いほど,反対される可能性が高いといえます。

3 まとめ

小規模個人再生では,債権者の頭数でも,金額でも,少なくとも半分以上が賛成してくれなけばなりません。

そのため,債権者が反対して失敗する場合は,1つの債権者が半分以上の債権額をもっているか,債権者数が2,3社しかいないケースが多いです。

この場合は,給与所得者等再生が選べるケースか,選べるとしてどの程度支払額が増えるのか等を慎重に検討して,いずれの個人再生を選ぶのか決める必要があります。

 個人再生に関するご相談をお考えの方はこちら

個人再生と個人の通常民事再生

裁判所を通じて債務を減額してもらい,3年から5年かけて支払っていく手続きを,個人再生といいます。

任意整理では,原則として元本が減らないことから,債務額が多いと分割払いの話し合いをしても返済しきれないことがあります。

一方,自己破産では,不動産,一定の価値がある車や保険は手放さなければならず,自宅,車,保険等を残して債務を整理したいという方に,個人再生はよく使われています。

ところで,個人再生は,住宅ローンを除く債務額(詳細な計算方法は複雑なので割愛します。)が5000万円以下でなければなりません。

法人の保証債務がある方や,事業をされている方,収益物件のローンが残っている方等で,債務額が5000万円を超える方もいらっしゃいます。

その場合は,個人再生が使えず,通常の民事再生という複雑な手続きになります。

通常の民事再生は,近年では,航空会社のスカイマーク等の大きな法人が,債務を減額して事業を続けるときに行う手続きです。

通常の民事再生は,原則として,監督委員という別の弁護士が裁判所から選任され,財産の時価評価や債務額の確定もより厳格に行われます。

そして,個人再生では,債権者が積極的に反対票を投じない限り賛成したものとみなされるのに対し,通常の民事再生では,債権者が積極的に賛成票を投じない限り反対したものとみなされるので,債権者が何もしなければ,否決されてしまいます。

そのため,通常の民事再生を試みる方や依頼を受けた弁護士は,債権者の理解を得るため,個人再生以上に積極的に活動する必要があります。

 個人再生についてはこちらもご覧ください。

岐阜地方裁判所の自己破産の運用変更

岐阜地方裁判所が,平成30年8月1日から,自己破産の運用を変更する旨の連絡がありました。

自己破産には,同時廃止と管財事件という大きく2つの分類があります。管財事件は,さらに少額予納管財事件と通常管財事件の2種類に分かれます。

少額予納管財事件(名古屋や岐阜の弁護士は,「S管」と呼んでいます。)と通常管財事件の大きな違いは,裁判所に納める予納金の額です。

S管は約22万円ですが,通常管財事件では約42万円です。

この違いは,管財事件であれば裁判所が選任する管財人という弁護士の業務量の違いであり,通常管財事件になるものは,管財人の業務量が多い事件ということになります。

今回の運用の変更は,S管でやれる事件を限定し,通常管財事件になる事件を多くする方向に働くものです。

たとえば,S管でやれるのは,弁護士を代理人に立てたもの(自分で申し立てたり司法書士に依頼した場合は満たさない)で,預金や保険の額もわずかな場合に限定されました。

また,これまで明確にされていなかった予納金を分割で納付することができる場合も,限定的にしか認めないことを明確にしました。

たとえば,家計の状況等からみて真にやむを得ない(節約の余地がない),財産を処分(車の売却や保険の解約等)して用立てることもできない場合等とされています。

これらは,自己破産のハードルを高くし,資料集めや節約を精一杯行うことを求めるものともとれ,自己破産は最後の手段であり,任意整理や個人再生で可能な限り解決することを求める裁判所のメッセージともとれます。

 

 

 

自宅の任意売却と競売

自己破産等の債務整理を行う際に,住宅ローンのある自宅等の不動産を手放さなければならないケースがあります。

ここでは,最もよくある住宅ローンが残っている自宅を想定して,不動産を手放す方法やメリット・デメリットを考えてみましょう。

住宅ローンが残っている自宅を手放す方法は,大きく分けると,任意売却と競売の2つです。

競売は,住宅ローンの債権者等が,裁判所に申し立てて強制的に自宅を売る手続きです。

任意売却は,自宅の所有者が自らの意思で自宅を売却する手続きです。

任意売却の方が競売より高値で売れるのが通常ですので,残った住宅ローンを少しずつ払うのであれば,任意売却のメリットは大きいといえます。

住宅ローンのある自宅を処分しても,売値より住宅ローンの残額の方が高ければ,住宅ローンが残ってしまうからです。

任意売却には,引越協力金等の名目で若干のお金がもらえたり,近隣住民に住宅ローンの支払いができなくなったことを知られにくいというメリットもあります。

しかし,自己破産する場合を中心に,競売にもメリットはあります。

任意売却では,不動産業者とのやりとりや自宅の中を見に来る購入希望者等に中を見せるのに立ち会ったり,不要な家財を処分する等,一定の労力がかかりますが,競売の方が労力は少ないでしょう。

また,任意売却で人気のある物件では,2カ月程度でも買い手が決まって退去しなければならないケースもありますが,競売では,申し立てられてから6ヶ月程度は自宅に居住していられることが多いでしょう。

債務整理に精通している弁護士は,任意売却を希望する方には不動産業者を紹介できることが多く,任意売却にかかる期間や労力は,不動産業者によって異なる可能性もあるので,任意売却か競売かお悩みの方は,お気軽に弁護士にご相談ください。

 債務整理を名古屋でお考えの方はこちら