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遺産分割と破産

1 遺産が残っていれば自己破産でお金にかえなければならない可能性がある

亡くなったお父様の遺産が残っている方が自己破産する場合、遺産はどうなるでしょうか。ここでは、令和6年1月1日にお父様Aが亡くなり、ローンが残っていない自宅の不動産を所有していました。ご存命のお母様をB、破産する方をCとしてみます。

Aの財産は、何もしなければ、Bが2分の1、Cが2分の1ずつ共有していることになります。

Cが自己破産する場合、A名義の不動産の2分の1をお金にかえなければならないのが原則です。

2 破産申立前に遺産分割しても否認権行使の可能性がある

では、Cが自己破産を依頼する前に、Aの遺産を全部Bに相続させるという遺産分割協議をして、B名義で登記した場合はどうでしょうか。

この場合、不動産は形式的にはCの財産ではありません、

しかし、破産の直前に財産を他の人に全部タダであげてしまうのは、財産隠しの一種になり、否認権行使といって裁判所が選んだ破産管財人から取り返されて現金化される可能性もあります。

ただ、これには、遺産分割と単なる贈与を同視すべきではなく、遺産分割協議が民法906条が掲げる事情と無関係に行われ、遺産分割に仮託してされた財産処分であると認めるに足りる特段の事情がある場合にしか無症候否認の対象にならないという裁判例(東京高等裁判所平成27年11月9日判決)もあるところですから、なぜ自分の取り分がなく全部母名義にするのかについて合理的な説明がつくかどうかも重要になります。

3 相続放棄

破産申立てする弁護士としてこの問題を解決するには、Cが相続放棄ができないか検討するでしょう。

相続放棄は一身専属性があり、詐害行為にならないという最高裁判例があるからです。しかし、相続放棄は亡くなったことを知ったときから3ヶ月以内に行わなければならない

のが原則なので、先の例では令和6年4月1日までしか行えない可能性があります。

4 個人再生

破産でなく個人再生の場合も同様の問題が生じますが、個人再生では実際に相続財産を換価するのでなく、清算価値に計上して返済すれば足ります。

つまり、返済額は増えるが、自宅をお金にかえる必要はないということです。そこで、返済能力があるなら、Cが自己破産でなく個人再生を選択することも検討すべきでしょう。

相続放棄の順番等

1 相続放棄の順番

親が亡くなった場合に、親の借金を引き継がないように家庭裁判所に申請して行う手続きを相続放棄といいます。

たとえば、亡くなった方をA、奥様をB、子供をC、Aの父をD、母をE、兄をFとします。

Aさんが亡くなったとき、最初に相続人になるのは、奥様Bと子Cになります。

そこで、最初にBとCが相続放棄するか検討することになります。

相続放棄は、基本的には自分が相続人になってから3か月以内に行わなければなりません。

2 相続放棄は兄弟まで回る

相続放棄の注意点として、子Cが相続放棄すると、次は亡くなった方の親(先の例ではDとE)が、その次はAの兄弟のFが相続人になることです。

DとEが存命の場合は、DやEが相続放棄しない限り、Aの借金を引き継ぐことになってしまいます。

ただDやEは、子供のAが亡くなっている年ですから、先に亡くなっているケースが多いです。

すると、Fが相続人になり、Fが相続放棄しない限り、Aの借金を引き継ぐことになってしまいます。

このため、Cが相続放棄する際には、Fに連絡してあげることをお勧めしています。

そうでないと、Fは、自分が知らないうちにCが相続放棄したことで相続人になっており、3か月経過すると相続放棄できなくなってしまう可能性があります。

Fの相続放棄の期限は、本来はCが相続放棄したことを知ったときから3か月なのですが、Fがいつ知ったかは証明が難しいです。

そこで、CがFに連絡して、FはCの相続放棄が裁判所で認められてから3ヶ月以内に相続放棄するのが安全なのです。

もちろん、Fの相続放棄も弁護士が委任を受けて行うことができます。

3 全員が相続放棄した場合

Fまで相続放棄すると、Aの相続人はいないことになります。

この場合Aの債権者(Aに払ってほしい借金がある者)はどうするのかとよく質問を受けます。

債権者は、相続人がいなくなった場合は、相続財産管理人を選任するよう、家庭裁判所に申し立てることができます。

相続財産管理人は、主に弁護士が選ばれ、Aの財産があればお金にかえて、債権者に分けます。

不動産競売と破産者の相続人の不動産買い受け

1 事案の概要

住宅ローンが払えなかったり、自宅を事業性の借入金の担保に入れている場合、破産に伴って不動産が競売されることがよくあります。

競売のルールを定める民事執行法では、不動産競売で、債務者(お金を借りて払えなかった本人)が競売不動産の買い受けの申出をすることは禁止しています(民事執行法68条、188条)。

ここで、競売手続中に債務者が破産の免責決定を受けた後に亡くなり、相続人が買い受けの申出をすることが許されるか争われた最高裁の判決があります(最高裁令和3年6月21日第一小法廷判決)。

2 最高裁は、以下の理由で、相続人が買い受けることを認めました。

⑴ 民事執行法が債務者自身の買い受けを認めない理由は、債務者は不動産の買い受けより債務全額の完済を優先すべきである、債務者が不動産を買い受けても債務を完済しない限り同一の債権者がもう一度競売申立てをする可能性もあること等にある。

⑵  免責許可決定を受けた場合、相続人は被担保債権を弁済する責任を負わず、不動産の買い受けより債務全額の完済を優先すべきとは言えない。

⑶ 相続人が買い受けの申出をする必要性はある一方、もう一度同一の債権について競売申立てが行われることはない。

3 評価

最高裁判所は、民事執行法68条の「債務者」に破産者の相続人は当たらないという解釈をしたことになります。

相続人が、同居の配偶者か子であるなら、たまたま債務者が亡くならなければ、問題なく不動産を買い受けて自宅に住み続けられたはずです。

それを、債務者の地位を相続してしまったために不動産の買い受けができなくなって自宅に住み続けられないのは酷に思えます。

破産で免責されているわけですから、そもそも債務者(お金を払う義務があるもの)といえるのかも疑問ですので、この最高裁の判決は妥当に思えます。

実際、自己破産のご相談に来られる方で、ご親族に自宅を買い取ってもらって住み続けることを希望する方は大勢いらっしゃいます。

不動産競売でなくても任意売却で親族に自宅を買い取ってもらう方法も考えられますので、お気軽に弁護士までおたずねください。

相続財産・負債の調査方法

亡くなった方の財産や借金をそのまま引き継ぐか、相続放棄等で財産も借金も引き継がないかは、亡くなった方の財産と借金がどれくらいあるかによるでしょう。

ここでは、亡くなった方の財産や借金をどうやって調査するかの一例をお伝えします。

1 通帳は記帳するほか、戸籍等を提出して銀行から取引履歴を取得することもある

亡くなった方の通帳を見ると、財産や借金がよく表れています。

たとえば、亡くなる直前まで毎月保険会社から引き落としがあれば、保険に加入している可能性が高いので、保険会社に問い合わせてみるとよいでしょう。

毎月クレジットカード会社の引き落としがあれば、クレジットカードで買い物や借金をしていたと思われます。

ただ、通帳は、銀行が亡くなったことを知ると、勝手に引き出しはできなくなるのが通常です。

どういう入出金があったかを知りたければ、亡くなった方との関係を証明する戸籍等を提出して、銀行から入出金履歴を取り寄せるとよいでしょう。

2 郵便物の確認

亡くなった方の自宅に届いている郵便物からも、財産や借金が分かります。

たとえば、証券会社から運用報告が届けば、その証券会社で株式等の投資商品を持っていたと思われるので、証券会社に問い合わせてみましょう。

また、消費者金融から請求書が届けば、消費者金融から借入をしていたことが分かります。

3 信用情報の取得

信用情報とは、ある人がクレジットカード会社、銀行等からいくら借りているかや、延滞しているか等を信用情報機関が管理しているものです。

亡くなった方の法定相続人は、亡くなった方の信用情報を取得できます。

信用情報機関には、CIC、JICC、全国銀行協会等がありますので、負債がありそうな場合は、これらの信用情報機関に照会するとよいでしょう。

4 相続放棄も検討する場合は、財産を取得したり借金を払わないよう注意

亡くなった方の財産も借金も引き継がない相続放棄も選択肢に入っている場合は、うかつに亡くなった方の財産を取得したり、借金を払わないよう注意が必要です。

財産だけもらって借金を払わないのは、相続放棄できない事由に当たります。

また、借金を払うことは、相続放棄せず単純承認(財産も借金も引き継ぐこと)したものとみなされる場合がありますので、単純承認すると決めるまでは支払いをしない方が無

難です。

どういう入金や支払いは大丈夫か等は、相続に詳しい弁護士におたずねください。