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新型コロナウイルスと裁判の遅れによる影響

1 新型コロナウイルス関係と裁判の遅れ

新型コロナウイルスによる外出自粛要請で,テレワークになったり,休業になった方が大勢いらっしゃいます。

弁護士も打ち合わせにウェブ会議システムを使ったり,法律事務所の相談スペースや執務スペースの消毒を行う等,弁護士業務に大きな影響を及ぼしています。

外出自粛要請は,裁判所等の官公庁も例外ではありません。

裁判所の職員の出勤が減ったこと等で裁判所に提出した書類の審査が大幅に遅れたり,裁判が傍聴人を入れて行う関係で三密に近い状態になりかねず,裁判の期日が延期になっ

ている問題があります。

ここでは,裁判が遅れることで,個人や事業をされている方に生じる影響について検討します。

2 裁判を通じた取立が遅れる

取引先が約束したお金を払ってくれないとか,人に貸したお金を返してもらえないときには,裁判をした後に,取引先や貸した相手の財産を差押えする等して強制的に回収することができます。,

しかし,差押えは,基本的に裁判所を通じて行わなければならないため,裁判が遅れると,強制的に回収するのが遅れることになります。

裏を返せば,お金を借りたり,約束したお金を払えない取引先は,差押えを受けるリスクが,新型コロナウイルスの問題が浮上する前より低くなっているともいえます。

3 建物の明け渡しが遅れる

賃貸人が,賃料を払わない賃借人を強制的に出ていかせるためには,裁判をして明け渡しを認める判決をもらい,判決に基づいて明け渡しの執行をする必要があります。

新型コロナウイルス関係で,賃料を払えない事業者が多くいることが問題になっていますが,裁判をしても明け渡しを認める判決が長期間もらえないとなると,賃貸人側からす

ると,賃料を払わない賃借人に出て行ってもらって次の賃借人に貸すこともできず,非常に収益が悪化することになります。

裏を返せば,賃料を払えない賃借人側では,明け渡しの判決が出るまでは少なくとも強制的に退去させられないとすると,他の支払を優先することになりそうです。

4 まとめ

裁判を通じない交渉も,新型コロナウイルスの影響下では,対面で話すことが難しくなっていることによる影響がありえるので,一概に裁判を通さない方が

有利になっているとは言い切れません。

争いごとの解決には,通常より時間がかかることを考慮して,裁判を通じるか,話し合うか,話し合うにしても対面でない方法がとりうるか等,検討する必要があります。

 

 

 

新型コロナウイルスと資金繰り

1 新型コロナウイルスと資金繰りの悪化

新型コロナウイルスの関係で,資金繰りが悪化している会社や個人事業主さんが非常に多くいらっしゃいます。

日々状況は変わっていますが,この記事の執筆時点では全国に緊急事態宣言が発令されており,外出の自粛等で経済活動はこれまでにないほど停滞しており,いつ終了するかも分からない状況です。

売上が大きく減っていることから,事業所の賃料,従業員の給料,税金,その他の経費の支払いが難しくなっている方も少なくありません。

ここでは,新型コロナウイルス関係で資金繰りが悪化した方ができる,資金繰りをよくする方法を3つ紹介します。

2 税金,水道光熱費の支払猶予

税金,健康保険料,厚生年金保険料は,支払が遅れれば,直ちに財産や売上の差押えをする点で,資金繰りを考えるうえで注意が必要なものです。

しかし,新型コロナウイルス関係で,国税に関しては国税庁,地方税に関しては総務省のホームページに,年金保険については年金機構のホームページに,最大1年間の支払猶

予が受けられる制度がのっています。

個別の相談は,既に分割払いの合意をしている場合はその担当部署と,そうでなければ納付書を送ってきている連絡先に相談されることになります。

また,水道光熱費も,支払が遅れ続けると,ライフラインがとまってしまう危険があるので,何の連絡もせず支払いをしないのは危険です。

各電力会社,水道局,ガス会社と話し合う必要があり,地域によって異なりますが,積極的に支払猶予を打ち出しているところが多くあります。

私の住む名古屋市も,名古屋市水道局のホームページに,支払が困難になった方向けの支払猶予の相談先が掲げられています。

実際支払いが難しい場合でも,口座からの自動引き落としになっていると,自動的に支払われてしまい,従業員の給料や皆さんの生活費が捻出できなくなっては困りますので,引落口座から出金して残高不足にしておいたり,自動引き落としの契約をやめることで,支払を止めることも検討できます。

3 賃料の支払猶予

事務所の賃料も,賃貸人又は管理会社に,支払の猶予や賃料の減額の相談をしてみることをお勧めします。

賃貸人が取引先の賃料を免除した場合の損金処理を認める措置や,猶予に応じた場合の固定資産税の納税猶予等の制度が作られています。

仮に長期間賃料が支払えなければ,最終的には退去を求められますが,強制的に退去させるためには,裁判を通じて判決を取得する必要がありますし,

一般に3ヶ月程度滞納しなければ退去まで認められないことが通常です。

これも引き落とし口座から出金しておいたり,自動引き落としの契約をやめることで,支払を止めることも検討できます。

4 金融機関の返済猶予

金融機関への返済も,連絡なくやめてしまうと,借入のある銀行口座が凍結されたり,一括請求されるおそれがあります。

そこで,金融機関にリスケジュールという元本の返済猶予(利息のみ返済)をお願いすることが考えられ,最初は応じてもらえる可能性が高まっていると思われます。

ただし,リスケジュールをお願いすると,少なくともその金融機関を通じた新規融資は受けづらくなります。

また,リスケジュール中に利息の支払いもできなくなると,やはり口座凍結等のリスクがでてきますので,事業の再生に詳しい弁護士に相談しながら,資金繰りを考えていくこ

とをお勧めします。

 

時効に関する民法改正とその影響

1 民法の改正と時効

令和2年4月1日から,改正民法が施行されます。

民法はもともと明治時代にできたもので,現代に合わない点が数多くあったことから,様々な改正が行われました。

生活への影響が大きいものの一つに,時効に関するものがあります。

時効は,一定の期間が経過すれば,本来払わなければならないものが払わなくてよくなったり,他人のものかもしれないものも取得できる制度です。

たとえば,AさんがBさんにお金を貸して,10年間Bさんが返済しないのにAさんが何もしていなければ,Bさんは,時効を主張すれば支払いをしなくてよくなります。

これは,改正前民法167条に,「債権は,10年間行使しないときは,消滅する。」と規定されていることによります。

2 債権の消滅時効期間が一般的に5年になる

改正後の民法166条は,次のとおり規程しています。

債権は,次に掲げる場合には,時効によって消滅する。

一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。

二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

AさんがBさんにお金を貸した例で考えると,Aさんはお金を返してもらう権利があることは,お金を貸した時点で知っていることになるでしょうから,5年で時効にかかることになりそうです。

これだけ見ると貸した人がかわいそうに思えますが,改正前は,事業者間の取引の時効が商法で5年になっていたり,民法で1年や3年の時効が定まっているものもあったところを,5年で統一する意味がありました。

3 消滅時効期間の改正と過払金返還請求への影響

名古屋で弁護士業務をしていると,「権利を行使することができることを知った時」がいつなのか争いになるケースが今後増えることが予想されます。

たとえば,当事務所が力を入れている過払い金の返還請求では,今までは,完済してから10年たたなければ時効にならないと考えられてきました。

しかし,完済してから6年しかたっていない場合でも,完済した時点で「権利を行使することができることを知った」ということになれば,改正後の民法では,5年の

時効にかかって過払い金を返還してもらえなくなりそうです。

過払い金は,過去に20%を超える高金利で借入をしていたならば生じることが分かるので,権利を行使することができる,つまり過払い金を請求できることを知っていた

という判断になる可能性は十分あります。

4 経過規定との関係で改正後民法が適用されない場合も多い

ただ,突然10年間時効にかからないと思っていたのに5年になって,権利を行使できなくなるのも不適切ですから,以下の場合に,改正前民法が適用されるという経過規定がおかれています。

「施行日前に債権が生じた場合(施行日以後に債権が生じた場合であって,その原因である法律行為が施行日前にされていたときを含む。)」(改正附則10条1項)

過払い金の例でいえば,令和2年4月すぐの時点では,過払い金のほとんどが施行日前(令和2年3月31日まで)に発生していますから,今までどおり10年で大きな問題は発生しないでしょう。

しかし,令和2年4月から時間が経つにつれて,施行日後(令和2年4月1日以降)の過払い金が多くなってきますので,早めに請求しないと時効にかかるケースが増える可能性があります。

 

自己破産や個人再生と返済ができないと思った時期

自己破産は,裁判所(名古屋市にお住いの方であれば,名古屋地方裁判所等,お住まいを管轄する地方裁判所)に申請して,原則として全ての借金を払わなくてよくしてもらう手続きです。

個人再生は,裁判所に申請して,借金額を5分の1等に減額してもらって,3年から5年かけて返済する手続きです。

自己破産や個人再生では,返済ができないと思った時期がいつかが重要なポイントになります。

その理由は,大きく3つあります。

1 返済ができないと思った後は,新たな借入をしてはいけない

返済ができないと思ったのに,新たに借入をして,予想どおり払えなくなったとなると,最初から返す意思がなかったことになります。

最初から返す意思がないのに借入をすれば,詐欺罪に当たる可能性もあり,自己破産では免責(借金がチャラ)されない事由にあたり,個人再生でも,

裁判所が認可しない事由にあたります。

2 返済ができないと思った後は,一部の債権者だけ返済してはいけない

自己破産や個人再生では,全ての債権者への返済を平等にやめなければなりません。

一部の債権者だけ返済した場合,たとえば消費者金融には返済しないのに親から借りたお金だけ返済している場合は,破産であれば,破産管財人という弁護士が,

親に対して裁判等をして返済したお金を取り返すことになります。

本来お金に余裕があれば親に返済することは自由ですから,いつから返済してはいけないのか問題となります。

それは,法律用語では支払不能・支払停止,簡単にいえば,もう返済ができないと思った時期から後は一律に返済してはいけないと考えられています。

3 返済ができないと思った後は,無駄づかいをせずにお金の流れを管理しなければならない

同じギャンブルで借金がかさんだのでも,10年以上前にギャンブルをしていたが10年前からやっていない場合と,返済ができていないのに自己破産する直前までギャンブルをやっていた場合では,後者の方が,裁判所や債権者の見る目は厳しくなります。

お金に余裕があればギャンブルや趣味にお金を使うのも自由という余地がありますが,もう返済ができないのにギャンブル等で無駄づかいをすれば,そんな余裕があったらもっと返済できたはずといわれます。

自己破産であれば免責が難しくなり,個人再生でも裁判所が認可しない事由にあたることもあります。

4 返済ができない時期についての対応策

自己破産や個人再生では,裁判所から,いつから返済できないと思っていたかや返済の目途があったかをきかれます。

最終的に弁護士に自己破産や個人再生を依頼する方は,いつかの段階では返済できなくなったはずだからです。

先ほどまで書いたとおり,たとえば弁護士に依頼する3年前から返済できないと思っていたのであれば,ここ3年間に借りて返せなくなったものや,ギャンブル等の無駄づかい

は非難されやすくなります。

一方,弁護士に依頼する数日前まで,返済を続ける意思や目途があったといえれば,たとえば6ヶ月前に新しく借入をして払えなくなっても,非難はやわらぐでしょう。

弁護士に依頼する直前まで,親族の援助を得たり,収入を増やしたり,生活費を切り詰めたり,新たな借入先を探したりして,返済を続ける努力をしている方は

大勢いらっしゃいます。

このような事情を上手に引き出し,裁判所に対し,弁護士に依頼する直前まで借入を返済する意思や目途があったと説得できるかも,弁護士の腕の見せ所の一つです。

実際返済をやめてから長い時間たって弁護士に相談される方もいらっしゃいますので,それを弁護士に依頼する直前まで借入を返済する目途があったというのは,説得力がないケースもあります。

このように,どの程度であれば裁判所や債権者を納得させられるかの判断は難しいものがあります。

自己破産や個人再生を検討される方は,返済できないと思った時期や返済の目途について,よく弁護士と相談されることをお勧めします。

名古屋で債務整理のご相談をお考えの方はこちらをご覧ください。

全国倒産処理弁護士ネットワーク

昨年末,全国倒産処理弁護士ネットワークという,倒産案件を扱う弁護士の団体が主催するシンポジウムに出席してきました。

全国倒産処理弁護士ネットワークは,少なくとも毎年1回,裁判官や倒産法の世界で著名な研究者も招いて,倒産法や倒産案件の処理に関するシンポジウムを開いたり,

倒産案件に関する著書を出版しています。

名古屋で行われたシンポジウムで,名古屋地方裁判所の裁判官の運用に関する講演を聞いたほか,近年の最高裁判所の判例をめぐる議論がありました。

最高裁平成30年12月7日判決は,簡単にいうと以下のような事案です。

自動車部品メーカーのYは,金属スクラップ販売業者Aに対して販売する金属スクラップに,代金の完済をもって所有権がYからAに移転するという所有権留保の合意をしていました。

その後,金融機関XがAに対して融資する際,Aの所有する在庫商品等について集合動産譲渡担保を設定し,動産譲渡登記もされました。

Aが債権者に事業を閉鎖する旨通知し,YがAに対し動産引渡断行の仮処分を申し立てて認容され,金属スクラップを引き上げたのに対し,XがYに,譲渡担保権を主張して争いました。

判決は,AY間の合意は,目的物の引渡しからその完済までの間,その支払いを確保する手段を売主に与えるものであって,その限度で,目的物の所有権を留保するものである。

売買代金が完済されるまで金属スクラップの所有権は移転しないから,「Aの所有する在庫商品」になっておらず,XがYに譲渡担保権を主張することはできないとして,Yを勝訴させました。

平成22年の最高裁判例で,車のローン会社が所有権留保権を破産管財人等の第三者に対抗するには,対抗要件を備えていなければならないというものがありましたが,平成30年判決は,Yの対抗要件について言及せずYを勝訴させていることから,破産・民事再生等の法的整理が行われていない点で平成22年判決と違うのか,集合動産譲渡担保が所有権留保に劣後するのか等,解釈をめぐって様々な考え方が出ています。

今後の倒産実務の動きが注目されます。

 

差押えについての法改正

1 差押えがしやすくなる

民事執行法という差押えのルールを定めている法律が,令和2年4月1日から改定されます。

弁護士は,お金を払わない人に対する差押えをする側の代理人もあれば,返済ができなくなった人の債務整理をする側もありますが,全般的に,差押えをする側に有利になる

ように改定されています。

2 財産開示制度に刑事罰ができた

民事執行法には,財産開示という制度があります。

お金を回収する側の人(債権者)が,判決をとってもお金を払ってこない人(債務者)に対して,裁判所に申立てをして,債務者がどういう財産をもっているか開示させるも のです。

今まで財産開示は,あまり使われていませんでした。

その原因の一つは,債務者が正しく財産開示をしなくても,30万円以下の過料という制裁しかなく,お金がなくて払わない人に,さらに30万円支払う額を増やしても,あまり効果がなかったためです。

今回は,制裁が6ヶ月以下の懲役叉は50万円以下の罰金となり,逮捕・勾留等の身体拘束をされる可能性がでてきました。

これにより,財産開示の申立てを受けた債務者は,何らかの対応をする必要性が高くなっています 。

3 債権者に銀行口座や職場を教える制度ができた

また,債権者が判決をとると,裁判所に申し立てて銀行に照会することで,債務者の銀行口座の差押えに必要な口座番号等の情報が提供される制度ができました。

今までは,銀行が守秘義務上,債務者の同意なしに口座の情報を教えるのが難しいとされ,また,銀行の支店名まで特定しなければ口座の差押えができませんでしたので,債権者は,債務者の口座を知らなければ,当てずっぽうで差押えをかけることが通常でした。

今後は,債権を回収する側は,銀行口座を把握して無駄なく差押えをすることが可能になります。

逆に債務整理をする側では,判決をとられた後は,口座にお金を入れておくことは今まで以上にリスクになります。

さらに,養育費等を払ってもらえていない債権者(離婚した元配偶者)は,判決等の債務名義をとって,前述2の財産開示の申立てをした後は,裁判所に申立てをして市町村や日本年金機構等に照会することで,債務者の勤務先の情報を取得する制度ができました。

今までは,転職を機に給料の差押えができなくなることが多かったですが,今回の改定で,転職しても市県民税を徴収している市町村役場等を通じて勤務先を教えてもらうことで,給料差押えによる回収がしやすい制度になっています。

 

 

会社の債務整理と資金繰り

1 会社は現金がなくなると倒産する

会社は赤字だから倒産するわけではありません。

このことは,誰もが知っている大きな会社が赤字決算でも事業を続けられていることや,黒字倒産という言葉があることからもわかります。

もちろん赤字が続けば,最後は会社は倒産するでしょうが,来期黒字に転じることができれば,会社は続いていくのが通常です。

一方で,黒字でも倒産する場合があります。

たとえば,商品を仕入れて売る卸売業で,売上は1000万円発生しているが,入金は6ヶ月後で,現在,仕入ができない状態になっているとします。

仮に仕入代が600万円で足りるとしても,仕入をする現金が用意できず,後払いでの仕入れもできなければ,売上の入金がある6ヶ月後まで事業は止まってしまいます。

このように,会社が倒産するのは,赤字のときではなく,現金がなくなったときなのです。

2 資金繰りの重要性

会社経営をされている方から債務整理の相談を受けたときに,弁護士等の専門家が最初におうかがいするのが,資金繰りです。

先ほど書いたとおり,会社が事業を続けていけるかは,事業に必要な支払いができる現金があるかどうかにかかっています。

そこで,いつの時点まで事業に必要な支払いを続けられるか検討する必要があります。

会社経営をされていて債務整理を検討する方の中には,お金の関係を経理担当者や税理士に任せていたり,どんぶり勘定だったりして,支払ができなくなる直前まで

そのことに気づかず,選択の幅を狭めてしまっている方も少なくありません。

そのため,主な現金が入ってくる出来事と現金が出ていく出来事を整理する資金繰表が重要になってきます。

3 資金繰りの考え方

たとえば,毎月28日に大きな売掛金が入ってくるところ,給料日と仕入代金の支払日が毎月25日の会社があるとします。

これでは,売掛金から給料や仕入代金を支払うことができず,常に前月の売上から現金をプールしておかなければ給料や仕入代金が払えないことになってしまいます。

そこで,売掛金の入金日を25日より早くしてもらえないかや,給料日や仕入代金の支払日を月末に遅らせることを検討することになります。

つまり,入金を早くし,出金を遅くするということです。

また,廃業やむなしという場合は,25日の給料や仕入代金を支払わず,28日入金の売掛金で自己破産申立ての費用を用立てることを検討することになります。

このように,入金日と支払日が少し違うだけで,事業の展開は大きく変わってきますので,会社の債務整理を検討されている方は,まず大きな入出金だけでいいので,簡単な資

金繰表を作ってみられることをお勧めします。

通常民事再生の再生計画案の議決

1 民事再生と債権者の賛成

民事再生は,裁判所を通じて,再生計画案に定める額まで借金を減額してもらって,分割で返済していく手続きです。

民事再生法には,個人の方が利用できる手続きとして,個人再生と通常の民事再生の2つが定められています。

個人再生は,大雑把に言えば,借金額が5000万円以下でなければ利用できず,借金額が5000万円を超えれば,通常民事再生になります。

通常民事再生でも小規模個人再生でも,一定の債権者の賛成が必要となる点では共通です。

賛成の割合としては,頭数で過半数,金額ベースで2分の1以上となっています。

2 個人再生と通常民事再生で,賛成の取り方が違う

債権者が賛成するか反対するかの集計の仕方は,個人再生と通常民事再生で異なります。

個人再生では,原則書面決議で,積極的に反対票を投じない限り賛成したものと扱われます。

つまり,賛成反対のいずれにも投票しなかった債権者は,賛成扱いです。

これに対して,通常民事再生では,積極的に賛成票を投じない限り反対したものと扱われます。

つまり,賛成反対のいずれにも投票しなかった債権者は,反対扱いです。

3 通常民事再生の賛成を得る方法

通常民事再生では,書面決議だけでなく,債権者集会での投票による決議もよく選択されます。

債権者集会は,債務者やその代理人弁護士が,債権者向けに再生計画案の内容を説明したり,逆に債権者からの質問に答える場です。

書面決議だけの場合,集会の会場確保等の準備がいらない反面,債権者の疑問に十分に答えられなかったり,債権者の要望に応じて再生計画案を

修正することもできません。

また債権者集会の投票のみでは,出席できない債権者の議決権行使が大変ですから,書面決議と集会における決議を併用する方法をとることも多いです。

いずれの方法でも,債権者に対し,投票に先立って,なぜその支払額・期間になっているのか,これ以上払うのが難しいのか等を説明して理解を得ておく

ことが大切でしょう。

 

弁護士による債権の回収

弁護士の業務の一つに,債権の回収があります。

債権とは,人が他人に対して何かをしてもらう権利を有していることです。

たとえば,友人に貸したお金が返ってこない,取引先に商品を売ったのにお金を払ってこない等が債権の回収の典型例です。

友人にお金を貸せば,返してもらう権利がありますし,取引先に商品を売れば,売買代金を払ってもらう権利があるので,これが債権になるのです。

債権の回収には,大きく分けると3つのステップがあります。

一つ目は,話し合いで払ってもらう段階です。

二つ目は,訴訟をして判決等を取得する段階です。

三つめは,強制的に相手の財産を取り立てる段階です。

一つ目の話し合いは,訴訟をするにもお金と時間がかかりますから,まずは相手方が任意に支払うことに期待して行うことが多いです。

弁護士に依頼すれば,内容証明郵便等で相手方に連絡をとり,相手方から何らかの返答があれば,相手方が払ってこない理由や,相手方の財産・収入等を把握しようと

試みます。

これは,第二段階で訴訟する場合の展開を予測したり,第三段階で強制的にとれる相手の財産がどこにあるかを予測する布石という意味もあります。

無事に話し合いがつけば,支払額や支払条件を決めた合意書を作り,合意書どおりの支払いを求めます。

この話し合いの段階で,相手方から何の返答もなかったり,何ら支払いの意思を示さない場合は,第二段階の訴訟に進みます。

訴訟では,証拠資料をもって相手方にお金を払ってもらう権利があることを裁判所に示し,判決をもらえば第三段階に進むことができます。

証拠資料が大幅に不足している場合は,この段階で勝訴判決をもらえないこともあります。

第三段階は,判決が出ても払ってこない相手に対し,相手の財産を差し押さえて強制的に取り立てる段階です。

ここでは,支払えるだけの財産や収入がない相手が,手ごわい相手になります。

自宅が持ち家であれば自宅を,勤め先が分かっていれば給料をなど,差し押さえる相手の財産が把握できている場合はよいですが,

そうでない場合は,判決をもらっても差し押さえる財産が見つからず,取り立てができないこともあります。

結局,債権の回収をどこまで進めるかは,債権の額,証拠の量,相手方の資力等を総合して判断することになります。

詳細は弁護士までおたずねください。

 

 

 

 

 

 

廃業と事業譲渡について

事業をされている方が廃業するのにともなって,その事業を別の方に引き継ぐことはよくあります。

たとえば,A社が多額の債務を抱えて自己破産して廃業するときに,A社の事業を何の対価も支払わずにB社が引き継いで行うことは,破産法上,B社が賠償を求められることがあります。

破産法160条3項は,「破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は,破産手続開始後,破産財団のために否認することができる。」

と定めています。

法人が自己破産すると,裁判所が,破産管財人という第三者的な立場の弁護士を選任します。

破産管財人は,債権者に分ける財産を増やすため,不適切に破産者の財産が失われた場合は,それを取り返す仕事もします。

A社の事業には,使っている機械工具や営業権(のれん代)等何らかの価値があるはずで,これが何の対価も支払われずB社に引き継がれた(無償行為)のであれば,破産管財人は,B社に対し,引き継いだ財産を返すよう求めたり,その対価を支払うよう求めることができ,これを破産法160条3項では「否認する」と記載しています。

破産管財人が否認する場合は,B社と交渉することもあれば,B社に対して訴訟することもあります。

大阪高等裁判所平成30年12月20日判決で,破産管財人から4000万円を超える賠償の請求が認められた裁判例が公表されています。

これは,A社が,メーカーから仕入れを行う一次卸売業者から菓子等を仕入れてパチンコ店向けに卸売する二次卸売業者という事例です。

A社が取引先のパチンコ店に対し,A社からB社に事業を引き継ぐと説明しB社が,A社のリース物件を使用して,一時卸売業者からの仕入値も取引先のパチンコ店への卸値もA社の頃と同じ金額で行っていた等の事実関係から,A社がB社に単に取引先を紹介しただけでなく,事業を無償で譲渡したものと認定し,破産管財人からB社への多額の請求を認めています。

メーカーの卸先も取引先のパチンコ店も限定されており新規参入が容易でない一方,多額の商機投資を要しないという業態にも理由があるようですが,取引先を紹介するだけであるから問題ないと

軽く考えると,事業を引き継いでくれるところに思わぬ迷惑をかけたり,法人代表者自身の債務が免責されなくなる等の可能性もありますので注意が必要です。