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保証人と民法改正

2020年4月1日から,改正された民法が施行されます。

明治以来の大きな改正となりましたが,債務整理をする弁護士としては,保証債務の規定が改正されているのが大きな影響を及ぼします。

1 保証人に対する情報提供義務

これまで保証人は,主債務者がきちんと支払いを続けているかや残っている債務の額等について,正確な情報を手に入れる機会に恵まれないまま,突然一括で多額の

請求を受けることもありました。

そこで,主債務者の委託を受けた保証人が債権者に請求すれば,債権者は,保証人に対して,債務の元本や利息等いくら債務が残っているかに関する情報や,主債務者が遅れなく支払っているかを速やかに教えるという規定がおかれました(改正民法458条の2)。

また,保証人が請求しなくても,主債務者が期限の利益を喪失した(延滞して一括請求を受ける状態になった)ときは,債権者は,期限の利益の喪失を知ったときから2ヶ月以内に,個人の保証人に対して,期限の利益を喪失した旨の連絡をしなければならないという規定もおかれました(改正民法458条の3)。

2 個人の保証人の保護

一定の限度額や目的の範囲内で,将来にわたって発生する債務も保証するのを,根保証契約といいます。

これまで,個人が貸金等契約の根保証をする場合は,極度額(限度の枠)を決めなければならないとされていましたが,貸金等契約以外の保証では,極度額を決めなくてもよいとされていました。

今回の改正で,個人が根保証をする場合は,全て極度額を定めなければならないことになりました(改正民法465条の2,4)

最も影響が出やすいのは,賃貸借契約の保証人でしょう。

賃借人が知らないうちに賃料を長期間滞納しており,保証人が非常に多額の賃料を請求される例が数多くありましたが,今後は減っていくものと思われます。

3 以前に締結した保証契約への影響は少ない

では,民法改正前に締結された賃貸借契約の保証人は,極度額の定めがなければ請求を受けないのでしょうか。

民法附則21条は,「施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については,なお従前の例による。」と定めています。

そうすると,基本的には,2020年3月31日までに締結した賃貸借契約の保証人は,極度額の定めがなくても全額の請求を受けると考えられる点に注意が必要です。

 

弁護士会照会

弁護士が証拠を集める手段として,弁護士会照会という制度があります。

弁護士は,どこかの都道府県の弁護士会に所属しています。

弁護士法23条の2には,次のように定められています。

弁護士は,受任している事件について,所属弁護士会に対し,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。

弁護士会は,前項の規定による申出に基き,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。

つまり,弁護士会が,所属する弁護士が依頼を受けている事件について,資料を提供したり質問に答えてほしい企業や役所に対して回答を求める制度です。

弁護士会照会は,法律に基づくもので,照会を受けた企業や役所は,原則として回答する義務があると最高裁判所も認めています。

たとえば,愛知県弁護士会に所属する弁護士Aが,Bさんから,Cさんに貸したお金を回収する依頼を受けました。

A弁護士は,Cさんに対し,貸金返還請求訴訟を起こして勝訴判決を得ました。

Bさんが,Cさんの財産がどこにあるか把握していない場合,強制的にCさんの財産をお金にかえて取り立てるためには,Cさんの預金口座がどこにあるか把握できると効果的です。

そこで,A弁護士は,D銀行に対し,Cさんの預金口座があるか,ある場合は,口座番号や残高を照会したいと考えます。

A弁護士は,愛知県弁護士会に申し出て,所定の手数料を支払い,愛知県弁護士会が審査して問題ないと認めれば,愛知県弁護士会が,D銀行に対し,Cさんの預金口座があるかや,口座番号,残高を回答してほしいという照会をします。

これが弁護士会照会です。

D銀行がA弁護士に,Cさんの預金口座の口座番号等を回答すれば,A弁護士は,CさんのD銀行の預金口座を差し押さえることで,強制的にCさんの財産からお金を取り立てることができます。

このように,弁護士会照会は,強力な制度ですが,D銀行が,Cさんの個人情報に関わるからと回答を拒否することもあります。

実際に,銀行の本店に問い合わせをしたときに,支店分も含めて回答がされる銀行は,一部に限られています。

しかし,裁判所が判決で,BさんがCさんにお金を貸したが返済を受けていないと認めているにもかかわらず,D銀行が回答を拒否した結果,Bさんが貸したお金をとりたてられないのも問題がありますから,運用の改善が必要とも考えられます。

 

 

名誉棄損の法的責任

近年,インターネット上の書き込みで名誉棄損やプライバシー侵害に当たるとされる事例が増えてきています。

一般の方が以前より気軽に情報発信ができるようになる一方で,行きすぎた発言や書き込みが原因で損害賠償請求を受けることもあります。

そこで,名誉棄損で損害賠償請求を受ける要件をみてみましょう。

まず,名誉毀損は,人がその品性,名声,信用等について社会から受ける評価を低下させる行為をいいます。

離婚や懲戒解雇に至った理由を開示する場合なども名誉棄損に当たる可能性があるので注意が必要です。

社会的な評価が低下する内容かどうかは,たとえばインターネット上のウェブサイトの記事であれば,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきと最高裁判所の判例には書かれているにすぎず,かなりあいまいなものになっています。

しかし,人の社会的評価が低下する書き込み等を全て損害賠償の対象とすれば,一般の方が人を批判する情報発信ができなくなってしまいますから,最高裁判所の判例でも,特定の要件を満たせば,問題のない情報発信とすることができるとしています。

その要件は,①公共の利害に関する事実にかかわること②もっぱら公益を図る目的に出た場合であること③摘示した事実が真実であることが証明されたこと又は摘示した事実を真実であると信じるについて相当の理由があること となっています。

また,名誉棄損は,事実を摘示して行う場合のほか,意見・論評を行う場合もあり,言論の自由への配慮から,事実を摘示して行う場合より,少し緩やかに問題がないものと認められています。

それでも,どの要件も抽象的で,結局裁判官の個性に左右される面もありますから,インターネットに他者に対する批判を書き込む場合は,慎重な判断が求められますので,詳細は弁護士までおたずねください。

 

 

相続財産管理人

相続財産管理人とは,裁判所から選ばれ,相続人がいない人の相続財産を管理する仕事をする者です。

たとえば,子や兄弟がいない人が不動産を持ったまま亡くなると,不動産を相続する人がいないことがあります。

ただ,亡くなった人にお金を貸していた人がいれば,不動産を売ったお金で返してほしいと思うのは自然なことです。

そこで,お金を貸していた人は,裁判所に対し,相続財産管理人を選任するように申し立て,相続財産管理人が不動産を売却して,お金を貸していた人等に支払いをすることになります。

相続財産管理人は,亡くなった方の財産や負債を調査し,財産をお金に換えて債権者に支払いをします。

また,相続人がいないけれども,特別に亡くなった方を世話した方等が,財産を受け取る権利を主張して申立てをすれば,特別縁故者に該当するか検討して財産を分ける仕事もします。

このような専門的な仕事ですから,相続財産管理人には,弁護士等の法律の専門家が選ばれるのが一般的です。

相続人がいない人の財産は,最終的には国のものになるのですが,国が不動産のまま受け取ることはめったにありません。

そこで,近年は,なかなか買い手がつかない不動産を,どのように売却して現金化するかが課題となっています。

 

少年事件の抗告

非行を犯したとされる少年(20歳未満の者)を弁護する事件を少年事件といいます。

弁護士は,付添人という立場で関与し,少年の言い分を法的に主張したり,二度と非行をしないように立ち直るための環境を整える役割をします。

たとえば,少年が自分はやっていないというのであれば,非行をしたという警察等の証拠が十分なのか検討したり,少年に有利な証拠を集めます。

また,少年が非行をしたことを認めているのであれば,被害者と示談をしたり,両親,学校,職場等と少年を応援してもらえるよう調整する役割をします。

少年事件は,家庭裁判所で審理され,不処分,保護観察,少年院送致等が判断されます。

家庭裁判所の判断に不服がある場合は,抗告といって,上級の裁判所(高等裁判所)で争うことができます。

抗告は,家庭裁判所の審判の決定があってから2週間以内にしなければなりません。

抗告が認められるのは,法令違反(手続きが法律上誤っている等),重大な事実誤認,処分の著しい不当(非行の内容等に比べて非常に重い処分になっている)とされています。

家庭裁判所の審判が直ちに停止されないので,家庭裁判所が少年院送致の決定をしている場合,少年院にいる少年と弁護士で打合せをしつつ進めます。

抗告が認められて家庭裁判所の判断がくつがえる例は少ないのが実情ですが,弁護士の腕の見せ所でもあります。

 

振り込め詐欺被害と口座凍結

振り込め詐欺等の被害にあった方がだましとられたお金を取り返そうとしたときに困るのが,加害者側に資力がないことです。

振り込め詐欺であれば,被害者は所定の口座に振り込みをしますが,すぐに別の口座に移されたり,出金されて現金になり,取り返すお金が

なくなってしまうのが通常です。

これを防ぐため,相談を受けた警察や弁護士は,振り込め詐欺に使われた口座を凍結してお金を動かせないようにする申請をすることがあります。

「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」で,口座凍結の要件等が定められています。

振り込め詐欺の被害金が口座凍結を通じて回復される場合の流れは,簡単にいうと以下のとおりです。

まず,警察や弁護士は,振込先の預金口座等を開設している金融機関に対し,犯罪利用預金口座等である疑いがあるとの情報提供をします。

金融機関は,捜査機関等からの情報やその他の情報に基づいて被害状況調査を行ったり,預金口座名義人の住所へ連絡する等所在状況調査を行い,犯罪利用預金口座等であると疑うに足りる相当な理由があると判断した場合は,口座の取引停止措置(凍結)を行います。

預金保険機構がホームページで公告をし,60日経過しても口座名義人が何らの権利行使等もしない場合は,口座名義人が金融機関から当該口座の預金を引き出すことができなくなります。

当該口座の預金が1000円以上残っていれば,預金保険機構が支払手続開始の公告を行い,期間内に被害者が所定の申請書で申請をすれば,金融機関が支払いを決定し,被害回復分配金が支払われます。

口座凍結は,迅速に,かつ口座名義人に知られないように行わないと,詐欺の被害金が出金されてなくなってしまいかねませんし,被害者本人がやるには複雑な手続きですので,弁護士や警察に相談することをお勧めします。

一般社団法人の設立のメリット

営利を目的とする法人には,株式会社や合同会社がありますが,営利を主目的としない法人を設立する場合は,一般社団法人がよく使われます。

一般社団法人を設立する目的は様々ですが,たとえば,法人格のないスポーツ団体や文化団体が,信用を高めるためや不動産を取得したい場合等があります。

法人格のない団体は,構成員の誰かの名義で不動産の登記をしたり,預金口座を作るのが一般的ですが,その構成員の債権者から,団体のための不動産や預金を差し押さえられたりする危険があります。

また,その構成員が脱退したり亡くなった場合は,不動産や預金を,別の構成員の名義にかえる必要が生じます。

そこで,一般社団法人を設立し,法人名義で預金口座を作ったり,不動産を取得すれば,構成員個人の財産と混同されたり,構成員が脱退した場合にも名義変更等をせずとも,永続的に活動を続けていくことができます。

一般社団法人のメリットとして,他の法人と比べて,法人化の手続きや法人設立後の運営の手間が少ないことがあげられます。

たとえば,NPO法人は,設立時に所轄官庁の認証を受けたり,監事を置かなければなりませんが,一般社団法人では,設立時に社員が2名いて,設立後は,社員総会と理事1人がいれば足りるので,夫婦2人で法人を設立することも可能です。

また,一般社団法人でも,一定の要件を満たせば,収益事業から生じた所得のみを法人税の課税対象とする非営利型法人とすることができ,会費収入等を非課税とすることができます。

詳細は,弁護士や税理士等におたずねください。

 

親の借金と相続放棄

債務整理で相談される方の中には,亡くなった親や配偶者の借金を相続してしまった方がいらっしゃいます。

たとえば,父親が事業をしていて1000万円の借金の返済を終えないまま亡くなったとします。

相談者さんには,お母さんと妹が1人がご存命とします。

何もしなければ,1000万円の借金は,お母様が500万円,相談者さんと妹さんで250万円づつ相続されます。

そこで,相続放棄という,父親の財産も借金も引き継がない手続きをすることがあります。

相続放棄は,家庭裁判所に住民票や戸籍等の必要な資料を整えて申請しますが,原則として亡くなってから3ヶ月以内に行わなければなりません。

期限を過ぎても,借金や財産を認識できなかった場合等で例外的に認められる可能性もありますが,大きく不利になります。

3ヶ月以内に財産や借金の状態が把握できずに判断に迷う場合は,熟慮期間の伸長という,期限を延ばしてもらう手続きを家庭裁判所にすることもあります。

また,相続放棄は,父親の財産を一部受け取ったり処分してしまうと認められなくなるので,父親の不動産の名義を変えたり,父親の車を売ったりしないよう

注意が必要です。

 

相続放棄のもう一つの特徴として,お母さん,相談者,妹さんと相続放棄すれば終わりではなく,父親にご兄弟がいれば,父親の兄弟(おじ・おば)に借金の請求が行くことがあり,おじ・おばまで相続放棄しないと借金問題が解決できないこともある点に注意が必要です。

詳細は,弁護士までおたずねください。

相続税の節税目的の養子縁組

毎年4月に,前年の重要な裁判例をまとめた重要判例解説という本が出版されます。

私が弁護士になってから毎年読んでいる本の一つです。

その中で,最高裁平成29年1月31日第三小法廷判決が,専ら相続税の節税目的の養子縁組について判示しています。

事案は,次のとおりです。

平成24年4月,Aは,税理士から,長男Bの子C(Aの孫)をAの養子にすると,相続税の節税効果があると説明を受け,平成24年5月,養子縁組届を提出しました。その後,AとBが不仲になり,Aが離縁届を提出したものの,離縁(養子・養親の関係を解消すること)の無効確認判決が確定しました。平成25年,Aが死亡し,相続人Xが,AとCの養子縁組は,縁組をする意思を欠くと主張して,無効確認訴訟を提起しました。

最高裁判所は,相続税の節税のために養子縁組をすることは,遺産の基礎控除額を相続人の数に応じて算定する相続税法の規定によって発生する節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするもので,相続税の節税目的と縁組をする意思とは併存しうるものである。したがって,専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1項にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。

そして,前記事実関係の下においては,縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく,「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たらない。と判示しました。

この判例は,専ら相続税の節税のために養子にしたことを立証しただけでは養子縁組が無効とはいえないことを示していますが,「前記事実関係の下においては,縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく」と限定しており,事実関係が違えば,節税目的の養子縁組が無効になる余地を残しているように読めます。詳細な事実関係は関係者でなければ分かりませんが,先に離縁の無効確認判決が確定しているので,今回の養子縁組の無効確認訴訟は,離縁の無効確認と同じ点が争われ,蒸し返しの側面が強かったので,養子縁組を有効する方に判断が傾いたのかもしれません。

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刑事事件の責任能力

刑事事件では,被告人の責任能力がないと判断されれば,無罪になったり,刑罰が軽くなることがあります。

無罪になるほど責任能力がないのを心身喪失(しんしんそうしつ),責任能力に乏しく刑が軽くなるのを心神耗弱(しんしんこうじゃく)といいます。

その趣旨は,被告人にはどうすることもできない原因により精神障害をわずらって犯行に及んでしまったとき,被告人を法的に非難することはできないからなどと説明されています。

責任能力があるかないかを検討するには,精神医学的な側面と法的な側面の両方から検討する必要があります。

異常な犯罪の異常さが病的なものかどうか,病的なものであるとして,その精神障害が犯行にどの程度の影響を与えたかという判断が精神医学的な側面です。

そして,被告人を法的に非難することができるかという法的な側面があります。

心身喪失や心神耗弱と判断されるのは,統合失調症と診断されているケースが多いので,弁護人としては,統合失調症の方を中心に精神の障害によって犯罪を引き起こしてしまった

と考えられる場合には,心神喪失や心神耗弱で無罪になったり減刑したりできないか検討することになります。

どのような場合に心身喪失や心神耗弱となるのかは,最終的には裁判所が,精神鑑定の結果,裁判所での立ち居振る舞いや事件記録に表れている供述等様々な事情を考慮して判断しますので,

限界事例の判断は難しいものがあります。

弁護士法人心では,刑事事件も取り扱っております。