毎年4月に,前年の重要な裁判例をまとめた重要判例解説という本が出版されます。
私が弁護士になってから毎年読んでいる本の一つです。
その中で,最高裁平成29年1月31日第三小法廷判決が,専ら相続税の節税目的の養子縁組について判示しています。
事案は,次のとおりです。
平成24年4月,Aは,税理士から,長男Bの子C(Aの孫)をAの養子にすると,相続税の節税効果があると説明を受け,平成24年5月,養子縁組届を提出しました。その後,AとBが不仲になり,Aが離縁届を提出したものの,離縁(養子・養親の関係を解消すること)の無効確認判決が確定しました。平成25年,Aが死亡し,相続人Xが,AとCの養子縁組は,縁組をする意思を欠くと主張して,無効確認訴訟を提起しました。
最高裁判所は,相続税の節税のために養子縁組をすることは,遺産の基礎控除額を相続人の数に応じて算定する相続税法の規定によって発生する節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするもので,相続税の節税目的と縁組をする意思とは併存しうるものである。したがって,専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1項にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。
そして,前記事実関係の下においては,縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく,「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たらない。と判示しました。
この判例は,専ら相続税の節税のために養子にしたことを立証しただけでは養子縁組が無効とはいえないことを示していますが,「前記事実関係の下においては,縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく」と限定しており,事実関係が違えば,節税目的の養子縁組が無効になる余地を残しているように読めます。詳細な事実関係は関係者でなければ分かりませんが,先に離縁の無効確認判決が確定しているので,今回の養子縁組の無効確認訴訟は,離縁の無効確認と同じ点が争われ,蒸し返しの側面が強かったので,養子縁組を有効する方に判断が傾いたのかもしれません。