事業をされている方が廃業するのにともなって,その事業を別の方に引き継ぐことはよくあります。
たとえば,A社が多額の債務を抱えて自己破産して廃業するときに,A社の事業を何の対価も支払わずにB社が引き継いで行うことは,破産法上,B社が賠償を求められることがあります。
破産法160条3項は,「破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は,破産手続開始後,破産財団のために否認することができる。」
と定めています。
法人が自己破産すると,裁判所が,破産管財人という第三者的な立場の弁護士を選任します。
破産管財人は,債権者に分ける財産を増やすため,不適切に破産者の財産が失われた場合は,それを取り返す仕事もします。
A社の事業には,使っている機械工具や営業権(のれん代)等何らかの価値があるはずで,これが何の対価も支払われずB社に引き継がれた(無償行為)のであれば,破産管財人は,B社に対し,引き継いだ財産を返すよう求めたり,その対価を支払うよう求めることができ,これを破産法160条3項では「否認する」と記載しています。
破産管財人が否認する場合は,B社と交渉することもあれば,B社に対して訴訟することもあります。
大阪高等裁判所平成30年12月20日判決で,破産管財人から4000万円を超える賠償の請求が認められた裁判例が公表されています。
これは,A社が,メーカーから仕入れを行う一次卸売業者から菓子等を仕入れてパチンコ店向けに卸売する二次卸売業者という事例です。
A社が取引先のパチンコ店に対し,A社からB社に事業を引き継ぐと説明しB社が,A社のリース物件を使用して,一時卸売業者からの仕入値も取引先のパチンコ店への卸値もA社の頃と同じ金額で行っていた等の事実関係から,A社がB社に単に取引先を紹介しただけでなく,事業を無償で譲渡したものと認定し,破産管財人からB社への多額の請求を認めています。
メーカーの卸先も取引先のパチンコ店も限定されており新規参入が容易でない一方,多額の商機投資を要しないという業態にも理由があるようですが,取引先を紹介するだけであるから問題ないと
軽く考えると,事業を引き継いでくれるところに思わぬ迷惑をかけたり,法人代表者自身の債務が免責されなくなる等の可能性もありますので注意が必要です。